昨年のことである。
9月9日午前、鉢呂氏は閣議後の記者会見で、野田首相、細野原発担当相とともに福島第一原発を視察したことを説明し、「残念ながら、周辺の町村の市街地は、人っ子一人いない、まさに死の町というかたちでした」と述べた。この「死の町」発言に対し、新聞・テレビがいっせいに「配慮を欠き、福島県が怒っている」と報じ、昼過ぎには野田首相も「不穏当な発言だ」と同調した。
このことについて、死の町発言がどうして不穏当なのだ、とブログに書いた。
http://kimagurebi.exblog.jp/16846897/
その後、ネットで私の疑問は明らかになったが、新聞やテレビは一切報道していない。どうしてなのか、それがこの本に書かれている。
同日午後6時50分過ぎ、フジテレビが、失言関連のニュースを報じた最後に、鉢呂氏が記者団との懇談の場で、「防災服の袖を取材記者の服になすりつけて、「放射能をわけてやるよ」などと話している姿が目撃されている」と報じた。
このあと共同通信が午後9時過ぎに「放射能」発言を加盟各社向けに配信。TBSは午後11時半からのニュースで、NHKは午後11時59分にネット配信し、翌日、朝刊には各紙がいっせいに「死の町」発言と「放射能」発言を大々的に採りあげる。そして、9月11日、鉢呂氏は辞任した。
上杉氏が手に入れたICレコーダーやネットの情報を総合してみると、実際はかなり違う。
「死の町」発言に対して、福島県民は怒ってなどいない。
もともとこの発言は、被災者や福島の市町村の首長から「中央の政治家には、われわれの町がゴーストダウンになってしまっているという認識が足りない。現実を直視して対応してほしい」と要望されて行ったものである。ゴーストタウンとは死の町のことであろう。
鉢呂事務所には県民からの抗議など寄せられていない。むしろ激励の声が多数寄せられている。鉢呂氏は、大臣就任前から福島県に通い、放射線量の測定や、除去の徹底を訴えていた数少ない政治家の一人であった。菅氏や細野氏に年間被ばく量の上限を20ミリシーベルトから1ミリシーベルトに下げるように進言していたのも彼である。むしろ、彼がそういう政治家だからこそ、菅氏が脱原発発言をしたとたんに嵐のような菅降ろしが始まったのと同じような目にあったのではないかと勘繰りたくなる。
記者団との懇談というのは、記者発表の後に彼を取り囲んだその場のことだが、「放射能、ついていませんか」「うつさないでくださいよ」と記者団がふって、鉢呂氏が「ほら」と冗談で応じた。
それが、「放射能つけちゃうぞ」という発言になっていく。しかも、その囲みにいたのは、朝日、毎日、NHK、共同の4社のみである。第1報を報じたフジテレビはいなかった。
残念なのは、日ごろマスコミの報道を非難して、真実の報道をうたい文句にしている赤旗も自ら取材することなく、(囲みに赤旗の記者もいなかった)彼らの尻馬に乗って、「鉢呂氏の暴言」を繰り返したことだ。
日本では記者クラブというのがあって、記者会見はそこで一括して行われる。全ての記事がそこから発せられる。やがてなれ合いが生じて、現場に行かなくても(当番のようにして交代で行ったり)そこからメモをもらい、本社へ送る。それをデスクが適当に直して載せる。だから、外国のように記者が責任をもって書き署名することもない。
こういう制度に対して、長野県知事だった田中康夫氏は「脱・記者クラブ宣言」をし、民主党がまだ理想に燃えて政権をとりたての頃、岡田克也氏は記者クラブ解放を申し入れていたが、今はどうなったんだろう。